グルメ列車Gran天空のランチが激ウマだった話
南海電鉄「GRAN 天空」乗車記&完全ガイド
聖地・高野山へ向かう“走る美術館と美食”の楽しみ方
2026年5月15日、南海電鉄の新観光列車「GRAN 天空」に乗車してきました。運行開始は2026年4月24日。デビューからまだ間もない話題の列車ということで、乗る前から期待値はかなり高めでしたが、実際に体験してみると、その期待を軽やかに超えてくる完成度でした。
GRAN 天空は、「なんば」と「極楽橋」を結ぶ約1時間30分の観光列車です。大阪のエネルギーが凝縮された世界都市・難波から、千年を超える祈りを受け継ぐ世界遺産・高野山へ。まるで異なる二つの世界をつなぐ旅を、単なる移動ではなく、感性を整える特別な時間へと変えてくれる列車です。公式サイトでも、難波と高野山を結ぶ沿線には歴史、産業、伝統工芸、豊かな食文化が息づいていると紹介されています。
コンセプトは、まさに「文化と伝統の本質に触れる旅」。扉が開いた瞬間から、ふわっと木の温もりと上品な空気に包まれ、「今日はちょっといい旅をするんだ」と気持ちが切り替わります。日常の延長ではなく、少し背筋が伸びるような非日常。でも、堅苦しさはなく、30代の女性が週末のご褒美旅として選びたくなる、ほどよい華やかさがあります。
まず目を奪われるのは、深紅の車体です。山岳区間の深い緑に映える赤に、ゴールドの装飾。駅に停まっているだけでかなり絵になります。外観デザインは、南海高野線沿線に息づくアーツ&クラフツの精神を取り入れたもの。車体を流れる有機的なラインは、南海電鉄の社章である羽車マークの羽をイメージし、側面には高野山のシャクナゲや、南海ビルを飾るアカンサスなど、沿線ゆかりの植物があしらわれています。
正面の「旅の羅針盤」エンブレムも印象的です。新しい鉄道旅の行き先と未来を示すシンボルとして設置されているもので、これから始まる旅への期待を静かに高めてくれます。3号車の山側には、好奇心のままに旅の地平をひらくという思いを込めた「キュリオシティマーク」もあります。こうした細部のストーリーを知ると、ただ写真を撮るだけでなく、車両全体をじっくり眺めたくなります。
車内に入ると、印象はさらに変わります。ここは本当に列車なのかと思うほど、空間づくりが丁寧です。木の質感、深いブルーグリーンのソファ、落ち着いた照明、窓から差し込む光。どこを切り取っても絵になり、まさに“走る美術館”という表現がぴったりです。
車内には沿線の素材や産業、駅、線路に由来する工業製品が随所に取り入れられています。家具、手すり、壁、柱、照明、小さな握り玉に至るまで、地域の文化や歴史を感じられるしつらえになっているのが特徴です。
たとえば、4号車には九度山ゆかりの真田紐を使ったパテーションがあります。高野山の麓の草木で染めた糸を職人が手で織り上げたもので、空間を仕切りながらも軽やかな彩りを添えています。また、4号車の乗務員室とソファの間には、大阪欄間の「節抜」技法と藍染めの阿波紙を組み合わせた光の建具があり、ふんわりとした光がとても幻想的です。ドアには、長寿や健康を意味する亀甲紋様の組子細工が採用されていて、上品な縁起の良さも感じられます。
さらに、パウダールームには大阪浪華錫器の錫製手洗い鉢や、御堂筋のイチョウをかたどった錫製プレートも。エントランスの床面には「旅の羅針盤」エンブレムを大理石のモザイクタイルで表現した装飾があり、乗り込む瞬間から特別に迎えられている気分になります。3号車のサービスカウンター背面には、かつてのなんば駅舎で使われていたレンガも再生利用されていて、都市の記憶と高野山への旅が美しくつながっています。
座席は号車ごとに個性があります。今回、食事をメインに楽しむなら注目したいのが4号車のグランシート、グランシートプラスです。ゆったりとしたソファ席で、お料理を味わいながら過ごす特別席。公式サイトでも、4号車はお食事を楽しめるソファ席として紹介されています。
2号車はワイドビューシートで、車窓を楽しめるよう工夫された座席配置。座席やテーブルには紀州材が使われ、紀伊神谷駅の美しい柱デザインを再現している点も見逃せません。景色重視の方にはかなり魅力的な車両です。
3号車はロビーラウンジで、1〜4号車すべての乗客が利用できます。ここでは軽食やお土産、オリジナル商品、ドリンクなどを購入できます。車内販売には、北極星の特製チキンオムライス、会津屋の元祖ラヂオ焼き、玉林園のグリーンソフト、自由軒のカレー煎餅や柿の種など、大阪らしいラインナップも並んでいます。
そして今回、何より驚いたのが料理です。正直なところ、乗る前は「観光列車の料理だから、雰囲気込みで楽しむ感じかな」と思っていました。でも、出てきたお料理をひと口食べて、その印象は一変しました。これはかなり本気です。
料理を監修しているのは、大阪・帝塚山のレストラン「Genji」の元川篤シェフ。南大阪や和歌山の海と山の恵みを、子どもから年配の方、海外からの旅行者まで楽しめるよう、ノンジャンルの料理に仕上げていると紹介されています。
ランチは「おかもち小鉢12品+ごはん+土瓶蒸し」。木のおかもちを開ける瞬間のワクワク感がたまりません。少しずつ色々な料理を味わえるので、見た目にも楽しく、女子旅や母娘旅にもぴったりです。公式メニューには、白胡麻豆腐、地元野菜、さわらの味噌漬け、泉州蛸、有田みかん、梅、じゃばら、河内鴨、有田生山椒、紅南高梅など、沿線の食材がずらりと並びます。
実際に食べてみると、一品一品の味付けにしっかりインパクトがあります。上品だけれど、ぼんやりしていない。香り、酸味、旨み、余韻がそれぞれきちんと立っていて、次の小鉢に箸を伸ばすのが楽しくなります。
特に印象的だったのは、冷めても美味しいどころか、冷製だからこそ美味しさが際立っていることです。列車内の食事は、どうしても「温かい料理が出せない」という制約があると思っていました。でもGRAN 天空の料理は、その制約を弱点にしていません。むしろ、常温や冷製で香りが立つように設計されているように感じました。
たとえば、さわらの味噌漬けに湯浅もろみクリームソースを合わせた一品は、冷めていても味がぼやけず、発酵の旨みがふわっと残ります。熟成鶏の有田生山椒塩は、山椒の香りがすっと抜けて、列車の中で食べていることを忘れるほど。冷製土瓶蒸しスタイルのスープも、ひんやりしているからこそ輪郭がクリアで、移動中の体にすっと入ってきます。
これまでいくつかグルメ列車に乗ってきましたが、味の良さで言えば、個人的には1位、2位を争うレベルでした。見た目が華やかなだけではなく、ちゃんと美味しい。ここが本当に大きなポイントです。
時間帯によって食事内容が変わるのも魅力です。モーニングでは、おかもち小鉢6品に加え、「りくろーおじさんのおかげ食パン」を使ったクラブケーキサンドや、レモンテリーヌのサンド、有田生山椒香る胡麻豆腐の冷製ポタージュなどが提供されます。ランチは今回のようなおかもち小鉢12品。アフタヌーンティーでは、紅南高梅と生山椒のプリン、バターサンド、旬のフルーツタルト、モンブラン、タルトヴァニーユなど、甘いもの好きにはたまらない内容です。
ドリンクもかなり充実しています。グランシート、グランシートプラスのプランでは、コーヒー、紅茶、ソフトドリンク、クラフトビール、日本酒、梅酒、ワイン、ウイスキーなどから選べます。なかでも今回、強く印象に残ったのが地ビールです。公式メニューには「天空高野 ビール」と「AGARA CRAFT ゆずエール」が掲載されています。
特にAGARA CRAFT ゆずエールが無茶苦茶美味しいです。ゆずの爽やかな香りとほどよい苦味があり、料理との相性も抜群。食事の味付けに酸味や香りのアクセントが多いので、ゆずエールの軽やかさがきれいに寄り添います。旅先で飲むクラフトビールは、それだけで思い出の味になりますが、これはかなり記憶に残る一本でした。
ソフトドリンクなら、GRAN 天空 特別パッケージのあらかわのももジュースもおすすめです。見た目もかわいく、旅の写真に入れるだけで気分が上がります。車内販売では、バターサンド、ドルチェ缶、野菜チップス、金平糖、ハート最中、果物ジャムなどのオリジナルメニューも購入できます。
一方で、乗車前に知っておきたい注意点もあります。それは、橋本駅から極楽橋駅にかけての揺れです。この区間は勾配がきつく、カーブも多いため、車両がかなり揺れます。体感としては、これまで乗車したグルメ列車の中で一番揺れました。
もちろん、この揺れも山岳鉄道ならではの臨場感です。レールと車輪がきしむような音、カーブを抜けるたびに変わる景色、ぐんぐん山へ登っていく感じは、普通のレストランでは絶対に味わえません。ただ、酔いやすい方には少し不向きかもしれません。スマホを見続けるより、遠くの緑や窓外の山並みを眺めていた方が快適に過ごせます。お酒を楽しむ場合も、揺れに弱い方は控えめにした方が安心です。
アテンダントの方のおもてなしも印象的でした。公式サイトでは、アテンダントスタッフは案内や食事提供に加え、車窓の景色、工芸品、食体験など、沿線の風土や文化を伝える役割を担うと紹介されています。実際、車内の空気が落ち着いていて、慌ただしさがないのが良かったです。観光列車らしい特別感がありつつ、過剰すぎない距離感で、ゆったり過ごせました。
今回乗ってみて感じたのは、GRAN 天空は「高野山へ行くための列車」でありながら、「GRAN 天空に乗ること自体が目的になる列車」だということです。美しい外観、工芸品に囲まれた車内、沿線食材を使った本気の料理、地ビール、山岳区間の車窓。そのすべてがひとつの体験としてまとまっています。
30代の女性目線で言うなら、これは“ちょっといい休日”にぴったりです。友人とのご褒美旅、母との親孝行旅、パートナーとの記念日旅、そして自分を整えるひとり旅にも合います。高級感はあるけれど、緊張しすぎない。写真映えもするけれど、見た目だけでは終わらない。きちんと美味しく、きちんと心に残る列車です。
南海電鉄「GRAN 天空」は、移動という時間を美しく塗り替えてくれる観光列車でした。大阪の活気と高野山の静けさを、デザインと美食でつなぐ1時間30分。窓外を流れる山々の緑を眺めながら、一品ずつ丁寧に味わう時間は、目的地に着く前から旅の満足度をぐっと高めてくれます。
揺れに弱い方には少し注意が必要ですが、それを差し引いても、また乗りたいと思える列車です。高野山方面へ行くなら、ただ移動するだけではもったいないです。旅の始まりから気分を上げてくれるGRAN 天空で、少し贅沢な大人の鉄道旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。






