GRAN天空1号のモーニング食事メニューレビュー|高野山へ向かう朝にふさわしい、静かな贅沢
南海なんば駅を朝9時に発つ列車に、朝食が用意されている。
そう聞くと、いくらか特別な気分になる。朝食というものは、本来あまり大げさな食事ではない。家であれば、トーストと珈琲で済む。駅であれば、立ち食いうどんか、コンビニのサンドイッチで足りる。だが、高野山へ向かう列車の中で出される朝食となると、話は少し違ってくる。
GRAN天空1号は、なんばから極楽橋へ向かう下り列車である。都市の中心を出て、南へ走り、やがて高野線は山へ分け入る。終点の極楽橋でケーブルカーに乗り継げば、高野山は近い。つまりGRAN天空1号のモーニングは、単なる朝食ではなく、高野山へ向かう一日の入口に置かれた食事である。
公式サイトによれば、GRAN天空1号のモーニングは、4号車グランシート・グランシートプラスの「お食事+フリードリンク付き」プランで提供される。内容は、おかもち小鉢6品、サンド2種、ポタージュ。地元食材の料理や旬の果実を取り入れた、車窓を見ながら味わう朝食とされている。
私はGRAN天空2号に乗り、ランチを食べた。したがって1号のモーニングについては、実際の試食ではなく、公式メニューを読み解きながら、2号で体験した車内の空気、料理の温度感、山岳区間の揺れ、飲み物の楽しみ方を重ねて書くことになる。だが、2号のランチで感じた「冷めても美味しい」という印象は、1号のモーニングを考えるうえでも、かなり重要な手がかりになる。
GRAN天空1号のモーニングはどんな食事か
GRAN天空1号のモーニングは、量で圧倒する朝食ではない。品数を整理すると、おかもち小鉢6品、サンド2種、ポタージュである。
小鉢は以下の6品。
地元野菜焼き浸し、木の子タルタルソース添え。
さわらの味噌漬け低温調理、湯浅もろみクリームソース。
人参ムース有田みかんジュレ、鴨のスモーク添え。
国産ローストビーフ、じゃばらソース。
足赤海老と山芋の銀あん、わさび添え。
沿線フルーツ。
そこに、サンドが2種類加わる。
「りくろーおじさんのおかげ食パン」クラブケーキサンド。
レモンテリーヌのサンド。
さらに、有田生山椒香る胡麻豆腐の冷製ポタージュが付く。
これだけを見ると、朝食としてはかなり凝っている。だが、重くはなさそうである。朝から牛肉も海老も鴨もあるが、いずれも少量で、ソースやジュレやポタージュに酸味や香りを持たせている。列車の朝食に求められるのは、満腹よりも、旅の始まりにふさわしい目覚めである。その意味では、GRAN天空1号のモーニングはよく考えられている。
朝9時発の列車で食べるということ
GRAN天空1号は、なんばを朝9時に出る。
朝9時という時刻は絶妙である。早朝ではない。だが、昼にはまだ遠い。家で朝食を済ませてから乗るには少し早く、駅で軽く食べてしまうには惜しい。そこで列車の中に朝食が用意されていると、旅程全体がきれいにつながる。
なんばの0番のりばから列車に乗る。都市の朝はまだ忙しい。通勤客の気配も残っている。けれどもGRAN天空の4号車に入ると、そこだけ少し別の時間になる。ソファ席に腰を下ろし、テーブルを前にして、朝食を待つ。列車が動き出すと、食事は単なる食事ではなくなる。車窓が進行しているからである。
朝の食事には、夕食や昼食とは違う慎みがある。酒を大きく飲むより、珈琲や紅茶を選びたくなる。だがGRAN天空は観光列車であり、フリードリンク付きプランではクラフトビールや日本酒も選べる。朝から飲むかどうかは人によるが、高野山へ向かう旅の非日常を味わうなら、少量の地ビールも悪くない。
ただし、山岳区間では揺れが大きい。これは私がGRAN天空2号に乗ったとき、はっきり感じた。橋本を過ぎ、九度山、極楽橋へ向かう区間では、カーブと勾配が増す。飲み物をテーブルの端に置いておくのは危ない。ビールでも珈琲でも、グラスやカップは手元に寄せておきたい。高野山へ向かう列車は、食堂車ではなく山の列車なのである。
小鉢6品は、朝の重さを避けている
モーニングのおかもち小鉢6品は、ランチの12品に比べると半分である。だが、朝食としてはこのくらいがよい。
まず、地元野菜焼き浸し。木の子タルタルソース添えというところに、和と洋の中間のような気配がある。焼き浸しだけなら和食の小鉢だが、木の子タルタルが入ることで、朝のサンドやポタージュともつながる。GRAN天空の料理は、和食、洋食、創作料理の境目を強く引かない。そこが列車旅に合っている。
さわらの味噌漬け低温調理は、湯浅もろみクリームソースで食べる。湯浅といえば醤油の町である。朝の魚料理に味噌ともろみを使うのは、しっかりした味になりそうだが、低温調理とクリームソースなら口当たりは穏やかだろう。列車の朝に焼き魚定食をそのまま出すのではなく、車内で食べやすい形へ変えているところがよい。
人参ムース有田みかんジュレ、鴨のスモーク添え。ここには和歌山らしさがはっきり出る。有田みかんのジュレは、朝に向く。酸味と甘みが、車内の空気を明るくする。そこに鴨のスモークを添えることで、単なる果物寄りの一品ではなくなる。小さな料理だが、朝食の中で印象に残りそうである。
国産ローストビーフ、じゃばらソース。朝からローストビーフというと少し重い。しかし、じゃばらソースが添えられるなら話は違う。じゃばら特有の酸味が肉の重さを切る。高野山へ向かう朝、肉を食べたという満足感と、柑橘の軽さを両立させる一品だろう。
足赤海老と山芋の銀あん、わさび添え。これは朝食の中で、もっとも静かな料理に見える。海老の旨み、山芋のやわらかさ、銀あんの透明感。そこにわさびが少し入る。列車が河内長野を過ぎ、だんだん山へ近づくころに食べたい料理である。
沿線フルーツは、朝食の締めにも途中の口直しにもなる。旬の果実を取り入れると公式に案内されているので、時期によって内容は変わるだろう。列車の料理に季節の変化があるのはよい。再訪する理由になる。
サンド2種は、朝食らしさの中心
モーニングの中で、もっとも朝食らしいのはサンド2種である。
ひとつは「りくろーおじさんのおかげ食パン」クラブケーキサンド。りくろーおじさんといえば大阪の名がすぐ浮かぶ。なんばを出る列車の朝食に、その名が入っているのは自然である。大阪を出発する前に、大阪の味をひとつ持っていくような感じがある。
クラブケーキサンドというのもよい。卵やハムのサンドより、少し旅向きである。手で食べられるが、日常的すぎない。ソファ席でおかもち小鉢を食べながら、サンドをつまむ。朝食としての気安さと、観光列車としての特別感がちょうど折り合う。
もうひとつは、レモンテリーヌのサンド。こちらは甘味寄りだろう。レモンの酸味は朝に合う。高野山へ向かう列車の中で、レモンの香りを含んだサンドを食べる。車窓がまだ都市から郊外へ移るころなら、その清潔な酸味がよく響くはずである。
サンドが2種類あることで、モーニング全体の印象はかなり軽くなる。もし小鉢だけなら、朝から小料理を食べている感じが強くなる。そこへパンの料理が入ることで、朝食らしい輪郭ができる。
有田生山椒香る胡麻豆腐の冷製ポタージュ
GRAN天空1号のモーニングで、個人的にもっとも気になるのは、有田生山椒香る胡麻豆腐の冷製ポタージュである。
私はGRAN天空2号で、最初の冷製土瓶蒸しに期待が高まった。冷たい出汁が車内の食事に合っていたからである。揺れる列車で熱い汁物を出すより、冷製のほうが落ち着いて味わえる。温度の低さが、かえって香りを明瞭にすることもある。
モーニングの冷製ポタージュも、おそらく同じ方向にある。胡麻豆腐は高野山を思わせる食材であり、有田生山椒は和歌山の香りを運ぶ。ポタージュという洋の形をとりながら、味の芯は高野山と和歌山に寄っている。
朝のポタージュは、胃を静かに起こす役割を持つ。温かいスープではなく冷製である点に、GRAN天空らしさがある。山へ向かう列車の中で、冷たい胡麻豆腐のポタージュをすする。これは想像するだけでもよい。
冷めても美味しい料理は、列車に向いている
私がGRAN天空2号でランチを食べていちばん印象に残ったのは、料理が冷めても美味しいことだった。
列車内の料理は、レストランの料理とは条件が違う。乗客は料理だけを見ているわけではない。車窓を見る。写真を撮る。飲み物を選ぶ。隣の人と話す。列車が揺れれば箸を止める。つまり、料理は出された瞬間から少しずつ時間を帯びる。
そこで大切なのは、冷めても味が崩れないことだ。GRAN天空のランチは、その点がよかった。冷製土瓶蒸しから始まり、小鉢も酸味、味噌、山椒、梅、じゃばらなどで味の輪郭をつくっていた。モーニングも、メニューを見るかぎり同じ考え方で組まれている。
ローストビーフにはじゃばらソース。さわらには湯浅もろみクリームソース。人参ムースには有田みかんジュレ。ポタージュには有田生山椒。いずれも、温度だけに頼らない料理である。朝の列車で、ゆっくり食べても味がぼやけにくいはずだ。
これは観光列車の料理として、とても大切なことである。料理が列車の速度に合わせてくれる。急がなくてよい。窓を見て、また一口食べる。それで成立する。
ドリンクは珈琲、紅茶、そして少量の地ビール
モーニングに合わせる飲み物を考える。
公式のドリンクメニューには、京都小川珈琲の天空ブレンド、紅茶、あらかわのももジュース、早和果樹園の味まろしぼり、有田みかんサイダー、じゃばらドリンク、ミックスジュース、大師の水、お茶などがある。さらに、クラフトビール、日本酒、梅酒、ワイン、ウイスキーまで用意されている。
朝食として素直に合わせるなら、まず珈琲か紅茶である。サンド2種とポタージュには珈琲がよく合うだろう。レモンテリーヌのサンドには紅茶もよい。有田みかんやじゃばらの酸味を楽しむなら、ソフトドリンクを選ぶのも自然である。
しかしGRAN天空である。地ビール、地酒も気になる。
私が2号に乗ったときは、地ビール、地酒がおすすめだと感じた。料理が南大阪と和歌山の食材を多く使っているので、飲み物も土地に合わせたくなる。朝の1号では、さすがに日本酒をしっかり飲むより、天空高野ビールやAGARA CRAFT ゆずエールを少量楽しむくらいがよいかもしれない。高野山へ向かう朝に「天空高野」という名のビールを飲むのは、少しできすぎている。だが旅では、できすぎた名前も悪くない。
ただし、飲み物には注意したい。橋本から極楽橋へ向かう山岳区間は揺れる。カップやグラスをテーブルの端に置かないこと。車窓に見入っていると、飲み物のほうが先にカーブを知る。これは経験上、かなり大事な注意である。
4号車の空間で食べる意味
GRAN天空1号のモーニングは、4号車のグランシート、グランシートプラスで提供される。
4号車は16席で、ゆったり食事を楽しめるソファ席が設置されている。グランシートプラスでは、テーブルやソファにもこだわった特別な空間とされる。2名以上から利用でき、食事付きプランは事前購入が必要である。
この「4号車で食べる」という点が、かなり重要だと思う。朝食の内容だけを取り出せば、どれも小さな料理である。だが、ソファ席に座り、同行者と向かい合い、車窓を見ながら食べると、意味が変わる。
鉄道の食事には、場所の力がある。料理そのものが同じでも、駅のベンチで食べるのと、山へ向かう観光列車の4号車で食べるのでは、味の記憶が違う。GRAN天空のモーニングは、まさに場所込みの朝食である。
車内販売とグッズへの期待
3号車にはロビーラウンジがあり、軽食や飲み物、お土産を販売している。GRAN天空オリジナル野菜チップス、金平糖、ハート最中、果物ジャムなどが用意され、4号車乗車客にはオリジナル金平糖のプレゼントもある。
一方で、GRAN天空オリジナルグッズについては、公式サイト上でもまだ「COMING SOON」の要素が見られる。ここは今後に期待したい。
観光列車には、持ち帰るものがほしい。パンフレットでも、乗車証でも、車両の意匠を使った小物でもよい。GRAN天空は、外観にも内装にも沿線の工芸や植物のモチーフを取り入れている。羽車マークに由来する有機的なライン、高野山のシャクナゲ、南海ビルのアカンサス。こうしたデザインは、グッズに向いている。
朝食を食べ、高野山へ向かう。その記憶を小さな品にして持ち帰れれば、旅はもう少し長く続く。GRAN天空グッズの充実に期待したい。
GRAN天空1号モーニングは誰におすすめか
GRAN天空1号のモーニングは、高野山へ日帰りで向かう人に向いている。
なんばを9時に出るので、朝に大阪市内を出発し、午前中に高野山へ入る旅程が組める。車内で朝食を済ませれば、現地到着後すぐに観光へ移れる。金剛峯寺、壇上伽藍、奥之院をしっかり巡りたい人には便利である。
また、宿坊に泊まる前の往路としてもよい。高野山へ行く旅は、山上に着いてから始まるのではない。なんばを出て、橋本を過ぎ、九度山を過ぎ、線路が山へ入っていくところから始まる。GRAN天空1号のモーニングは、その始まりを食事にしてくれる。
一方で、朝からしっかり飲みたい、重い食事をしたいという人には、少し上品すぎるかもしれない。モーニングはあくまで朝食であり、ランチのような量や迫力を求めるものではない。小鉢、サンド、ポタージュを、車窓とともにゆっくり味わう食事である。
まとめ|高野山へ向かう朝に、ちょうどよい贅沢
GRAN天空1号のモーニングは、派手な朝食ではない。だが、旅の始まりとしてよくできている。
おかもち小鉢6品には、地元野菜、湯浅もろみ、有田みかん、じゃばら、足赤海老、沿線フルーツが並ぶ。サンド2種には、大阪らしさと朝の軽さがある。冷製ポタージュには、胡麻豆腐と有田生山椒の香りがある。全体として、南大阪と和歌山の土地感を、朝食の重さに抑えてまとめている。
私がGRAN天空2号で感じた「料理は冷めても美味しい」という長所は、1号のモーニングにも通じるはずである。温度に頼らず、酸味、香り、出汁、ソースで食べさせる。列車の中で、車窓を見ながら、急がずに食べられる料理である。
飲み物は珈琲や紅茶が素直に合う。だが、地ビールや地酒にも心が動く。朝の列車で飲むなら控えめがよい。山岳区間は揺れるので、飲み物には注意したい。グラスはテーブルの端に置かない。カーブでは手を添える。それもまた、高野線の列車らしい作法である。
GRAN天空1号のモーニングは、移動中の食事ではなく、旅の序章である。なんばを出た列車が高野山へ向かう。その一時間半ほどのあいだ、朝食は少しずつ土地の名を運んでくる。食べ終わるころ、列車はもう山の気配の中にいる。
高野山へ行く朝、ただ早く着くことだけを考えないなら、GRAN天空1号のモーニングはよい選択である。食事が終わっても旅は終わらない。むしろ、そこから高野山が始まる。


