GRAN天空2号・3号のランチメニュー食事レビュー|冷めても美味しい、山岳列車のための料理
高野山へ向かう列車、または高野山から下る列車で食事をする。そう書くと、駅弁を膝にのせ、割箸を割る程度のことを思うかもしれない。しかしGRAN天空のランチは、もう少し構えが大きい。
GRAN天空2号と3号で提供されるランチは、4号車のグランシート、グランシートプラスを予約した乗客だけが味わえる。内容は「おかもち小鉢12品+ごはん+土瓶蒸し」。南大阪と和歌山の食材を使い、ひとつの弁当というより、小さな料理の集合として組み立てられている。
私はGRAN天空2号に乗った。極楽橋を出て、なんばへ向かう上り列車である。高野山を歩いたあとの帰路で、列車は山を下る。旅の終わりに食事が出るというのは、なかなかよい。人は出発のときよりも、帰り道のほうが静かに味を確かめる。
GRAN天空2号・3号のランチはどんな内容か
ランチが提供されるのは、GRAN天空2号とGRAN天空3号である。2号は極楽橋発なんば行き、3号はなんば発極楽橋行き。つまり、同じランチでも、2号は高野山から大阪へ戻る食事、3号は大阪から高野山へ向かう食事になる。
料理の構成は、おかもち小鉢12品、季節の炊き込みご飯、冷製土瓶蒸しスタイル。小鉢には、白胡麻豆腐、地元野菜、さわら、泉州蛸、有田みかん、梅、じゃばら、足赤海老、河内鴨、熟成鶏、有田生山椒など、沿線の名を背負った素材が並ぶ。
列車の食事は、むずかしい。厨房で出される料理と違い、提供されてからすぐ食べるとは限らない。乗客は車窓を見たり、酒を選んだり、写真を撮ったりする。カーブでは箸が止まることもある。だから、熱さだけで勝負する料理は列車に向かない。
その点、このランチはよく考えられている。冷めても美味しい。これは実際に食べてみて、いちばん強く感じたことである。
最初の冷製土瓶蒸しから期待が高まる
食事のはじまりは、冷製土瓶蒸しである。
土瓶蒸しという言葉からは、秋の松茸や熱い出汁を思い浮かべる。ところがGRAN天空では冷製で出る。これが列車には合っている。揺れる車内で熱い汁物を扱うのは、乗客にもスタッフにも気を使う。冷製であれば落ち着いて味わえるし、香りと出汁の輪郭もはっきりする。
最初のひと口で、これは単なる観光列車の添え物ではないと思った。列車の食事でよくある「話題性が先に立つ料理」ではなく、まず味でこちらを向かせる。冷たい出汁が口に入り、山の朝の空気と重なる。極楽橋を出たばかりの列車は、まだ高野山の湿度を残している。その中で飲む冷製土瓶蒸しは、かなりよい導入であった。
ここで期待が大きくなる。あとは小鉢がどこまで続くかである。
おかもち小鉢12品は、沿線の地図である
料理はおかもちに収められて出てくる。これが見た目にも楽しい。小さな料理がいくつも並ぶと、人は自然に順番を考える。どれから箸をつけるか、酒を先にするか、ご飯を少し待つか。車内のテーブルが、小さな旅程表になる。
白胡麻豆腐には金山寺味噌が添えられる。胡麻豆腐というと高野山を思わせるが、そこに和歌山らしい味噌が重なる。地元野菜の焼き浸しには、木の子のタルタルソース。野菜だけで終わらせず、少し洋の表情を加えている。
さわらの味噌漬け低温調理には、湯浅もろみクリームソース。湯浅と聞けば醤油の町である。食材名がそのまま土地の名になり、ひと口ごとに地図が開く。泉州蛸のコンフィ、漬けマグロの梅のソース、国産ローストビーフのじゃばらソース。和食と洋食の境目を、あまり気にしていない。だが乱れてはいない。列車の旅には、こういう越境が似合う。
足赤海老と山芋の銀あんは、しっとりとした余白を持つ。河内鴨クラフトソーセージとドライフルーツのクリームチーズ和えは、酒を呼ぶ。熟成鶏の有田生山椒塩は、山椒の香りがあとに残る。タンドリーチキンブリトースタイルまで入るのは意外だが、12品の中ではよい変化球になっている。
最後に紅南高梅と生山椒のプリンがある。甘味でありながら、梅と山椒の土地感を残す。列車が大阪へ近づくころ、この小さなプリンを食べると、山から下りてきたことを少し惜しむ気持ちになる。
冷めても美味しいという強さ
GRAN天空ランチの良さは、料理が冷めても美味しいことにある。
これは褒め言葉として、かなり大きい。列車の料理は、出された瞬間にすべてを食べるわけではない。ましてGRAN天空の4号車は、ソファ席である。食事をし、飲み物を選び、写真を撮り、車窓を眺め、また箸を戻す。そういう食べ方になる。
熱々であることを前提にした料理なら、途中で失速する。しかしこのランチは、冷製土瓶蒸しから始まり、小鉢も常温で味が立つものが多い。酸味、出汁、味噌、山椒、梅、じゃばら。香りと調味の組み合わせで食べさせるので、温度が少し変わっても印象が崩れない。
食事が旅の速度に合わせてくれる。これは、列車内の料理として大切なことだと思う。
山岳区間は揺れる。飲み物には注意
GRAN天空で食事を楽しむときに、ひとつだけ強く書いておきたいことがある。山岳区間は揺れる。
極楽橋から九度山、橋本へ下る区間、または橋本から九度山、極楽橋へ上る区間は、高野線らしい山の線路である。カーブが多く、勾配もある。都市部の特急のように、テーブルの上の飲み物がじっとしているとは限らない。
グラスを置いたまま話に夢中になると、液面が先に反応する。列車がカーブに入ると、ビールも日本酒も、山の形を知っているかのように傾く。これを面白いと思う余裕はほしいが、こぼしてからでは遅い。
特にフリードリンク付きプランで地ビールや地酒を楽しむ場合は、飲み物の置き場所に注意したい。写真を撮るときも、グラスを端に置かない。列車が揺れたら、箸より先にグラスを押さえる。そのくらいでちょうどよい。
ドリンクは地ビールと地酒がおすすめ
GRAN天空のランチには、地ビールと地酒がよく合う。
料理が南大阪と和歌山の食材を中心に組み立てられているので、飲み物も土地に寄せたほうがよい。天空高野ビール、AGARA CRAFT ゆずエール、純米吟醸 高野山 般若湯、天野酒 吟醸など、名前だけでも列車旅の気分を高めてくれる。
とくに高野山から下るGRAN天空2号では、日本酒がよい。朝の山を歩き、ケーブルカーで極楽橋へ下り、列車に乗る。まだ昼前である。そこで少しだけ地酒を飲む。健全とは言いきれないが、旅とはもともと日常から少し外れるものである。
料理との相性でいえば、河内鴨や熟成鶏、ローストビーフにはビールが合う。さわら、胡麻豆腐、土瓶蒸しには日本酒が合う。じゃばらや梅の酸味が効いた料理には、ゆずエールもよいだろう。
ただし、繰り返すが山岳区間は揺れる。飲みすぎると列車の揺れと酔いが重なる。GRAN天空では、たくさん飲むより、土地の酒を少しずつ選ぶほうが似合っている。
2号で食べるか、3号で食べるか
同じランチでも、GRAN天空2号と3号では印象が違うはずである。
2号は極楽橋発なんば行き。高野山を訪れたあと、山を下りながら食べるランチである。旅の余韻の中で料理を味わう。車窓は山から町へ変わり、最後は大阪の密度へ戻っていく。料理は帰路の沈黙をほどく役目をする。
3号はなんば発極楽橋行き。こちらは高野山へ向かう期待の中で食べるランチである。なんばを出て、堺東、河内長野、橋本と進むにつれ、町の景色が山へ変わる。料理は旅の序章になる。冷製土瓶蒸しを口にしたころには、まだ大阪の気配が残っているかもしれない。小鉢を食べ進めるうちに、列車は高野山麓へ入っていく。
どちらがよいか。高野山の旅を締めくくるなら2号、これから高野山へ行く気持ちを高めるなら3号である。私なら、初めてなら3号、再訪なら2号をすすめたい。だが実際に乗った2号の印象から言えば、帰り道にこそGRAN天空のランチはよく合う。旅の記憶を整理しながら食べる小鉢は、少し贅沢で、少し寂しい。
車内と食事の相性
4号車は、食事をするための空間としてつくられている。グランシート、グランシートプラスはソファ席で、相席にならない。ここが大きい。知らない人と向かい合って食べるのではなく、同行者とひとつの席を使う。会話の声も落ち着く。
車内には沿線の工芸や意匠が取り入れられている。真田紐、組子細工、建具、照明。食事だけが浮いているのではなく、車内全体で高野山へ向かう、あるいは高野山から帰る時間をつくっている。
料理がおかもちで出てくるのも、この空間に合っている。皿をいくつも並べるのではなく、箱の中に小さな料理が整然と収まっている。列車の揺れを考えれば合理的であり、同時に見た目もよい。
GRAN天空グッズには、さらに期待したい
食後に3号車のロビーラウンジへ行くと、軽食や飲み物、お土産がある。オリジナル野菜チップス、金平糖、ハート最中、果物ジャムなど、GRAN天空らしい商品も並ぶ。
ただ、実際に乗ってみると、もう少しグッズが欲しくなる。観光列車は、乗ったあとに何かを持ち帰りたくなる乗り物である。車両のデザインを使った文具、手ぬぐい、マグネット、アクリルスタンド、記念乗車証、車内の工芸をモチーフにした小物。そういうものが増えれば、GRAN天空の記憶は家に帰ってからも続く。
料理がよいだけに、食後の余韻を持ち帰る品がもっと充実すれば、この列車の満足度はさらに高くなると思う。
まとめ|GRAN天空ランチは、列車の速度に合った料理である
GRAN天空2号・3号のランチは、豪華さを見せびらかす料理ではない。小さな料理を重ね、土地の名を少しずつ口に入れていく食事である。
最初の冷製土瓶蒸しから期待が高まり、おかもちの12品で南大阪と和歌山をたどる。料理は冷めても美味しい。これは、列車の中で食べる料理として何より重要である。
地ビール、地酒もよい。天空高野ビール、ゆずエール、高野山般若湯、天野酒。名前を見て選ぶだけでも、旅の気分が動く。ただし山岳区間は揺れる。飲み物には注意したい。列車はレストランではなく、山を走る乗り物なのである。
GRAN天空2号で山を下りながら食べるランチは、旅の余韻を深くする。GRAN天空3号で山へ向かいながら食べるランチは、旅の期待を高める。同じ料理でも、進行方向が変われば味わいも変わる。
高野山へ行くなら、移動をただの移動で終わらせない方法がある。GRAN天空のランチは、そのためのよい選択である。列車は揺れ、酒は傾き、箸は少し止まる。その間にも、山と町の距離は縮んでいく。食事が終わるころ、旅はもう次の場面へ入っている。


